その時どう考えどう決断したか

5月26日~28日の北海道遠征の記録 

今回は、2つの大きな目的があった。         
一つ目は、何百回と試してきたイマージングメソッドが北海道の川で通用するかどうか?
もう一つは、ユーロニンフィングで爆釣できるかどうか?(ただ、釣れるだけではいけない,連発爆釣しなければいけない)

その為に、北海道用のサイケデリックイマージャーをタイイングし、キャスティングのアキュラシー
トレーニングをしてきた。ユーロニンフの北海道バージョンも新たに巻き用意した。

羽田空港の出発ロビーで静かに目を閉じながら、イメージトレーニングをする。アドレナリンが身体中を駆け巡り、すでに大物をランディングしている自分がありありと想像できる。釧路行きの旅客機が空へ力強く浮上するエネルギーと共に、私のフィツシングエモーションは上昇し続けた。

北海道ライズフィッシング

5月27日
その日は朝から小雨がぱらつく空模様。しかし、こういう天候はフライフィッシングにとっては好条件になることが多い。何故なら気圧の低下に伴い、水生昆虫のハッチが活発になる可能性が高いからだ。

結果から言うと、ライズフィッシングでは50オーバーのワイルドレインボーをミッジフライで4匹ランディングできた。(地元の人の話では、実際は一匹でも御の字だと言う)また、下流域のネイティブ区間ではユーロニンフィングで川をチェックするように立て続けにフックセットしランディングに持ち込めた。1時間ほどの釣り上がりで釣果十数匹であった。

誰もが諦め、手こずるミッジの激しぶライズを4匹仕留められたのは正直にうれしい。
そして、美しい野生のネイティブレインボーがユーロニンフで立て続けに釣れたことも大きな達成感と満足感がある。
何がうれしいかというと、自分の「戦略と戦術」が見事にはまり成功したことにある。

NOTE
時々刻々、その瞬間瞬間にどう判断しどう釣ったのかをここに記したいと思います。釣果を左右する大きな要素として微差力があります。その微差の判断、決断を分刻み秒刻みで検証し記録に残すことは釣りの戦術、戦略の引き出しを多くストックすることであり、釣りの財産として積み上がっていきます。あなたも、この「時々刻々の釣行記」を参考にして、自身の釣行を詳細にわたり記録し、仮説検証、改善のサイクルを繰り返してみることを最高のノウハウとして提案します。ざっと記すのではなく、こと細かく詳細に記録することがポイントです。そのことで微差の積み重ねがいつしか大量にストックされ、それはあなただけの独自性を生み出し、釣りのステージが大きく飛躍していくことは間違いありません。つまり、微差は大差であり、大差は微差なのです。
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朝、8時。今回の案内役のMさんとホテル前で待ち合わせし、車で川へ向かう。
フラットな流れのホテル裏ライズポイントは、多くの釣り人がすでに陣取り入れる場所がないだろうということで、まず、下流域のネイティブポイントへ車を走らせる。

1kmほど川沿いの道を走ったところで、Mさんは何かフと思うところがあったようで、

「一応、ライズポイントの様子だけでも見てみましょう」

ということで急遽予定変更。途中でÙターンしホテル裏へ向かう。

「でも、もう車は停められないかな・・」

ライズポイントへ入れるホテル裏の駐車場は既にいっぱい・・・、かと思いきや、一番手前のスペースが一か所だけ空いていた。これはラッキーだった。さっきまでいっぱいだったはずなのに素晴らしいタイミングである。今思えば今回は様々な幸運が重なった。

運がいい、幸運、ラッキー、持っている。
色々な表現があるが私はこの日、釣れる予感しかなかった。こういう日は釣れるのである。過去の経験則からもそれは言える。不思議なほど不安や焦りはまったくない。静かなフローに入っているのが分かる。静寂の中の確信とでも言おうか・・。

魚の生命力と私の生命力が深いところでシンクロしている感じだ。

ユーロニンフィングロッド(現在はオリジナルロッドBILZY zoneを使っている)とラージアーバーディスクリールのセッティング、ゴアテックスウェーダーとおニューのピンフェルトウェーディングシューズを履き、レインジャケットを赤のフリースの上に着込み、その上から各ポケットに全8個入ったずっしりと重いフライベストを着る。いかんせん、タングステンニンフが数百個となると、かなりの重量になる。

マイフライボックス

(ボックス内容は、8-7-8スリットⅬサイズのユーロニンフボックスが2個、ウエットストリーマーボックスが一個、ストリーマーボックスが一個、カディス、ストーンフライのⅬサイズドライフライボックスが一個、メイフライのⅬサイズドライフライボックスが一個、ミッジとイマージャーのフライボックスが2個)

タックルをセッティングし、出撃準備は整った。よし、川へ向かおう!
一番、静かな興奮が訪れる時である。どんな釣りの一日になるのか?

CHAPTER1(サイケデリックイマージャー)

「いいポイントには既に釣り人が入っているでしょうから、川の様子だけでも見てみましょう」「了解、そうしましょう」

駐車場から川辺に着くと、コバルトグリーンの素晴らしくフライフィッシング向きの流れが目の前に広がる。川幅10m~ほど。大きく蛇行しながら瀬とプールを交互に作っている。

「あれ?ちょうど空いている。お~!こ・・これはラッキーですね」

少し上流には何人もの釣り人がいたが、奥がワンドになっている一番の好ポイントには誰もいなかった。

まるで私が到着するのを待っていたかのようである。
駐車場といい、このライズポイントといい、完全勝利へのステージは整った。

「やってみましょう!」

すぐさまリールからラインを引き出し、フリッピングで手元の弛みを無くす。
そして、身を少し前傾しハンティング態勢に入る。

あちこちに50オーバーのレインボーが優雅に泳いでいる。コバルトグリーンな川は透明度も高く魚の生息度はかなり高い。手前の流れでも、ワンドになっている最奥のポイントに続く流れでも、不定期にディンプルライズを繰り返している。

魚のライズと私のエネルギーが深いところで共鳴している感覚だ。
この時すでにかなり心地いい。静かで深いフローに入り瞑想的な感覚を覚える。最高のひと時である。釣れる確信しか心に湧いてこない。

私はまずサイケデリックイマージャーの14番をティペットに結んだ。インプルーブドクリンチノット。11回の回転で輪の中を折り返し、唾で濡らし慎重に締めこんだ。何度も強くフライとティペットを引っ張る。この作業はとても大切だ。ここを怠ると、後々後悔する羽目になるからだ。

この時、サイケデリックイマージャーを選んだのには訳がある。それは、ピューパやアダルトなどのドライフライでいきなり行くよりも、イマージングメソッドをまず最初に試したかったからだ。

この方法がここで成功すれば、おおよそ何処へいってもどのような河川規模でもこのメソッドが通用することを証明できるからだ。いきなり最奥のワンドにはトレースしない。もっと手前でも散発のライズはある。まず、その魚をサイケデリックイマージャーで狙う。

第一投目。散発のライズがある場所に10m弱の間合いを取りピンポイントキャスト。魚の真上を通過するようにラインを操作しフライを流れに投射する。着水しナチュラルに流れていき、ライズポイントをナチュラルスイングでフライは流れていく。

反応はない。

だが、流速や水面のよれや絡み具合が感覚的に分かる。
こういう小さな情報を見逃さず、次のキャストに生かす。

フライラインを少し手繰り、無音のフォスルキャストを一回だけする。モードフライなのでフライを乾かす必要はない。無駄なフォルスキャストはせず一回で済ます。釣りをできるだけシンプルにする。

第二投目。一投目より高い位置でロッドをストップさせ少し手前にフライが着水するようにキャストし、よりナチュラルにフライが流れるように調整する。スイングは掛けない。ライズポイントに差し掛かったとき、水面がわずかに盛り上がったように見えたが、流れの撚れで確かではない。

「ん?、何かに引っ掛かったか?流木か?いや、魚か?」

「フライは表層を流れているから根掛かることはありえない・・」

どんよりと重くなったフライラインを少し煽ると、ブォ~ンと魚が浮かび上がった。

「魚だ。よ~し、フックセットだ!思惑通りだ。2投目で来た!」


北海道ライズフィッシング


取り乱すような大きな興奮はない。静かで強い自信とマインドフルネスな心地よさで心は溢れている。目の前で起こっていることがスローモーションのように感じられる。

完全なる釣り。
思惑通り、予定通りだった。

何故なら、120%この釣り方を信頼しているからである。このメソッドでどれだけのライズを今まで仕留めてきただろうか?渓流のヤマメ、イワナ、湖のレインボー、菅釣りのニジマス・・。本当にたくさんの魚を相手にこの釣り方を試してきた。そして、そのほとんどは予想以上に素晴らしい結果を生んできた。

だが、川で50cmを超えるレインボーをこのミッジングで釣り上げたのは初めてである。そもそも、50オーバーがミッジにライズするシチュエーションに本州では出会わなかったからだ。やはり北海道は懐が深い。

重い引きをする魚だが、ランのパワーはそれほどでもなかった。このポイントをむやみに荒らす訳にはいかない。あちこちに何匹もの50オーバーがいる。下流への走りを何度かいなし少し強引なロッド操作でランディング。

魚を見ると尾びれは丸くなり少し欠けている。おそらく、解禁に合わせて放流された成魚であろう。でも、2投目で釣れたこと、イマージェントフライに反応し思惑通りに釣れたこと。この収穫は大きかった。これからの戦略を余裕を持って組み立てられる。

私には釣りの基本戦術がある。その考え方の基軸を私は「モード釣法」と呼んでいる。
イマージェントハンティングも、モード釣法の中の1つの表現形態である。



NOTE
何はともあれ、素早く第一匹目を釣り上げることはとても大切である。ここをモタモタして釣れない時間が過ぎていくと、釣りのテンポやリズムも重くなり狂いだす。戦術や思考にも陰りが見えだす。こうなると最悪、釣れる魚まで釣れなくなってしまう。スピードが重要である。とにかく一匹釣ってしまうこと。このことで、その日の釣りに軽快なテンポとリズムが生まれる。体はリラックスし血流もよくなり、思考回路も柔軟になる。余裕を生むことは勝つ釣りをする為には重要である。勝ちの循環に入れるのである。
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正直、二投目で釣れたことで、この日の釣りは勝負あったと心の中で呟く。

周りを見ると誰も釣れていない。そもそもライズするその脇を、マーカーを浮かべて流しているような具合だった。経験の浅い釣り人とたまたま一緒になったのだろうが、やはりライズがあるときはライズを狙ってほしいと心の中でそう思う。

CHAPTER2 フローティングピューパ

イマージャーの釣りをもっと確かめようと、フライは交換せずに次の魚を狙う。だが、やはり場が荒れてしまったのか反応がなくなってしまった。ライズは止まっているがサイトで魚が数匹確認できる。見えている魚の反応を見ようと、ポジションを変え、トレース角度を変え、流す層を微妙に変え試したが無反応。

やはり、ライズしていない魚の反応は一気に落ちる。次の手を考えていると今回の案内役のMさんが、よかったらこのフライでと、一つのフライを私に手渡した。ピューパ系のフライだが地元ならではの一工夫あるフライだった。

郷に入っては郷に従えということで、フライをチェンジし気持ちをリセットして流れに立つ。動かずに気配を消すことを意識し流れを観察していると、対岸のせり出した木の下や奥のワンドで小さなディンプルライズが不定期に起こってきた。先ほどのヒットで場が荒れてしまったが、静寂が訪れると魚たちはまた捕食活動を始めたのだ。しっかりと見ないと見過ごしてしまいそうな小さな波紋だ。だが、その魚はどれも50オーバーである。

小さなユスリカに50オーバーがライズを繰り返すのは、本州ではそうそうお目に掛れない。

「あ、ライズした。あそこでも」さすがにMさんは目がいい。スピードもある。この川の状況すべてを把握していて私が見過ごしてしまう小さな波紋も見逃さない。

ちょっと深く呼吸をし体制を整え、川の全体把握に努める。こういう時、ロングブレスで精神統一をすることは素晴らしい効果がある。深い呼吸が頭の血の巡りを良くし、より集中力を増すことができる。

釣りは、気を集中し闘争心を高めなければいけない。しかし、また逆に殺気を放ってはいけない。魚にその気配を悟られずに気を入れる。二律背反の矛盾した在り方をどう咀嚼していくかが鍵になる。

まず対岸の、木がせり出しているすぐ下流で時折ライズしている魚を狙うことを決断する。ほかの場所でも数匹が不定期にディンプルライズをするが、こういう場面では一匹に狙いを定めないといけない。ライズしているレーンを広範囲に何となく流しても結果は出ない。正確なキャストで一匹の魚の真上にフライをトレースすることが最善の策である。

逆算して、フライを投射する場所を見定める。対岸には木がせり出し、そのすぐ前の流れは流木が水面から突き出している。ストラクチャーを上手く回避する為に、その上流数メートルにフライをプレゼンテーションすれば木の下を通過し狙っている魚の真上に到達できるだろう。しかし、流すレーンが少しでもズレたら、突き出した流木にフライを取られるだけだ。

フォスルキャストを数度繰り返し、出来るだけ誤差なく正確にフライをキャストする。オープンループではせり出した木に引っかかることは一目瞭然。狭いナローループで尚且つテーリングを起こさずにフライをピンポイントへノーインパクトでプレゼンテーションする。

まずおそらくは、この正確でソフトなフライの投射が上手く出来ない人が多いのかも知れない。フライキャスティングの腕が試される場所であり、ラインシステムも重要な要素である。




せり出した木のすぐ上流へフライを投射し、すぐさま大きなメンディングを上流へ1回打つ。
そして上流へ大きく膨らんだラインがフライと同じ流れの筋に流れ続けるように、フリッピングを何度も打つ。フライがドラグフリーの状態を保てるようにラインを送り出していく。

この流れでナチュラルドリフトに徹する為の最善の策である。

せり出した木のすぐ下流のライズの上を通過したが、反応はない。静かにピックアップし同じライズをもう一度狙う。だが、出ない。

後ろで見守っていたMさんが、ワンドの一番奥のライズを狙ったほうがいいと助言をくれる。今狙っている魚まで流す距離が短いために、気配を悟られ魚に見限られていることが原因だろうと考えたのだ。私も同じ考えだった。

ワンドの最奥のライズまでは、せり出した木から10m近い。この距離をフリッピングを駆使してドラグフリーでフローティングピューパを流さなければならない。そうしなければ、あのライズはまず取れないだろう。

次のキャストで決めてやる。そう決断し一回のフォルスキャストでテーリング寸前のタイトループを作りフライをプレゼンテーションする。いい所に入った。後はドラグフリーでドリフトしていくだけである。

川の流れの音だけが我々を包む。フライはCDCだけが水面に出た状態で完全に流れと同調している。ティペットはフライの上流へ一直線上にあり表面張力を破って水面直下にある。
このドリフトなら、魚はティペットの存在に気付かない。フライの流れ方は不自然な要素がまったくない。

「出る・・必ず」

そう確信する。

スローモーションのようにフライは川をゆっくり流れていく。
手前でライズしていた魚の頭上をフライは通過する。反応はない。

ピックアップせず、そのままフリッピングを続けワンドの最下流に位置する強者(ツワモノ)へフライを送り込んでいく。

よし、来るぞ・・
どうだ・・。

フライは狙っている魚の真上に差し掛かった。

来るぞ・・。

川の音は消え無音の世界が目の前に広がり時は止まった。

・・・・



次の瞬間、


バシュ!

「食っった〜!!」

後ろで息を潜め見守っていたMさんが叫ぶ。
反射的にロッドを強く煽る。

「来たぜ!!よっしゃ〜!ウォ〜!」

私にも、魚がフライにライズする姿がはっきりと確認できた。

15mほど下流で大きな水しぶきと共に魚はもんどり打った。静寂は破られた。
フライラインは長い距離をピーンと張ったまま空中でブルブル震えている。
ロッドは大きな弧を描き、リールはギュルル〜と逆回転する。

「狙い通りだ!よしよし・・こういうことだよ!」

自画自賛したくなるほど、完璧なライズハンティングであった。

50はあるな。凄いパワーだ。強くて重い。
この魚は絶対取りたい。慎重なリールファイトで魚とワイルドレインボーと対峙する。

下流への強烈なランを何とかロッド操作とディスクブレーキを使って食い止める。
腰を落とし膝を曲げ、魚のパワーを吸収していく。じわじわと魚を寄せていく。

走る瞬間を捉え逆方向へロッドを煽る。カウンターをくらわす要領だ。何度か繰り返し食い止めると、魚は観念したかのように私のランディングネットへ収まった。
50cmオーバーのワイルドレインボーだった。

美しい。
おそらく、この場所の主であろう。

フライを素早く外し、水の中で手を添え魚を流れの中で支える。
しばらく、私の手の中でゆらゆらとしていた魚は朦朧とした意識が戻ったのか、力強く流れに戻っていった。

「よし、完全なる戦術の勝利だ」

強い生命エネルギーが私の体の中に充満していった。

フローティングピューパ2

次のライズを仕留めようと川を観察する。散発だが小さいライズが所々である。
私はその散発ライズをモグラ叩きのように狙ってみた。ライズがあったらすかさずキャストしライズの1m手前にフライを落としナチュラルドリフトさせた。私の中にある戦術の一つを試してみたかったのである。

しかし、どのライズにもフライは無視された。やはり、一匹に狙いを定めた方がいいのか?忙しく川のあちこちにフライラインの影が行き来する。さすがに魚もただならぬ気配を察していたのだろう。やはり、この狙い方は無謀だったか・・。

そう分かりながらも、ライズに間髪入れず反応しキャストするこの釣り方は、スピード感に溢れゲーム性も高く大好きな釣り方なのである。ある種、武術で相手と対しているような緊張感のある間合いがあり、一瞬の油断や判断の不正確さが釣果に直結する痺れるような戦いを挑むことが出来るのである。

しばらくアップテンポのキャスティングを繰り返し、フライ(毛鉤)の状態を確認しようとラインを手元に手繰り寄せ、左手でフライラインの先端を掴みロッドを右へポンッと煽りスルスル~とリーダーを左手の中で滑らせそのままフローティングピューパを掴んだ。

ロッドの煽りが強すぎるとフライフックが左手に刺さる可能性もあるので、力加減が難しいが、フライの状態を確かめるのには時間短縮になりよくやる方法である。

フライは型崩れもなく、しっかり4Xティペットに結ばれている。ティペットの消耗も大丈夫だ。OK。

私は、フライを無造作に流れに投げた。次のキャストを開始する為の所作である。フライラインをフリッピングし、適度な長さを出し、いざキャストに入ろうとロッドを加速しながら振り上げようとしたとき、ロッドに思いもよらない重さを感じた。「ん!?何だ?根掛かりか?」
しかし、次の瞬間フライラインはいきなり下流へもの凄い勢いで走った。「さ・・魚だ!」

ラインは力強い直線を描き、ギュルギュル〜とリールは悲鳴をあげる。
魚には釣り人の殺気が伝わると言われるが、まさに「気のない毛鉤」に魚は警戒心を解き、このチャンスを逃すまいとアタックしてきたのだろう。

この現象を深く探求していけば、新たなドリフトの方法論が生まれるかも知れない。

ワンドから一段落ち込んで流速を増す激しい流れに入られたら、魚はその勢いのまま下流へ走り続けるだろう。そうなれば、俺も川を走らなければならない。それは避けたい。

魚は一旦横のワンドへ逃げようとし体をクネらせた。だがその直後、ワンド側は危険だと判断したのか、下流へ走ろうと大きな反転を試みた。私は、その反転の瞬間を見逃さず、間髪入れず上流側へ大きくロッドを煽りテンションを掛けた。つまり、魚のランの瞬間にカウンターを取ったのである。

魚は、全速力で走ろうとした出鼻をくじかれ、大きな精神的ダメージを負ったかのようだった。

腰を落としロッドバッドにエネルギーを溜め、ディスクドラグを強める。
これ以上は、走らせない。

かなりランディングに手こずるも、最後は観念したかのように私の大きなランディングネットに収まった。

予期せず、釣れてしまったという場面だが、こういうことは起こりそうで起こらない。
イレギュラーな釣りも戦略の一つである。(としておこう‥笑)

「持ってますね・・」

「ありがとう、そうか俺は、持ってるな・・」そう心の中で呟く。

深い確信と共に、大きく静かな精神的高揚を全身で感じた瞬間であった。